単細胞生物のイブ
あらい

モノノケ準え、型紙だけが戯けている
薄情な者ですが姿だけを残していきます
そのうち、枯れるでしょうが

煌びやかなリネンの死体袋に
薄紅の陽の欠片を加護めた
面影を散らした数、樅木の鐘が鳴ります
梳いた紫陽花の首と一生添い寝して
夏の夕立に合わせて、沈みましょか
吹き溜まりの祀り櫓と、ときに解ける
薄ら寒い粉雪が 風花と狂い咲く
動き出したことを示した 足跡。
うらみつらみの澱が涙に愁い
吹きっさらしの風に背を押され
溺れ死んだ。おかあさんはどこにいるの

培われて行く世界とは うらはらな心
壊されて逝く未来と重なり合う
明るく陽に照らされ透けて、生きる
過去は捨て去られて夕暮れを、纏う
希に転写されたネオンが眩しく
目頭を押さえると涙袋に到達する
飲み込んだ澱が留まる処

別邸には湖があり家鴨が子を産んだ
幾度も繰り返される幸福の形でも
上澄みを掬うと波状の鱗粉が浮かび上がる
沢山の笑顔から剥がれた思い出達
蔓が重る 椿並木の奥に潜む女豹
今、ゆっくりとその姿を霧散させる
魂は声もあげずに、生きたまま死んでいく
記憶、再生の時を迎えても
煮え立つ愛に浸しても、渇きクズに孵る

ただ繭玉を愛している

しょっぴく虹彩と紙縒り指先に、しとどまる
地上に投げ出された隕石、道端の石と化かし
楔に繋がれ逃れようもない、くたびれたひび
こともなき、はだかのひと、衣装と化粧をはたく

北極点に寄り過ぎた柩に素足で描き出す
無邪気な三毛猫が遊んでいた植木鉢の種が
およそ七針ほどの距離の青葉を茂らせる
黄身がかった裸電球の白い花を焦らすという
姿を消した夜の街に、皆を閉じ込めて居る。
気づくこともない、終を重ねる人、
世に云う楽な仕事だ


自由詩 単細胞生物のイブ Copyright あらい 2020-08-07 19:53:56
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