輪廻かな
こたきひろし
親父が脳溢血で倒れた日
電話が掛かってきた
親父本人から
「ひろし、今すぐ俺に会いに来い!」
それは命令口調だった
「どうしたんだよ父ちゃん?何かあったのか?」
すると父ちゃんは言ったんだ
「父ちゃんはもう長くない。父ちゃんの死に目に会いたかったら直ぐに来い」
「悪い冗談は止めろよ!元気そうじゃないか?」
俺は聞いた「今何処にいるんだよ?」
親父は答えた「病院だよ」
「嘘だろ?生き死に境にいるなら電話なんか出来る訳ないだろ!」
「これが嘘だったらお前なんかに電話するかよ。お前みたいな親不孝もんに」
親父が言って直ぐに電話は兄貴に代わった
携帯電話からだったようだ
「父ちゃんが直接お前に電話するって聞かないんだ」
兄貴に代わったら全てがにわかに現実になってしまった
俺は身が震えだした
俺は直ぐに嫁さんに事実を携帯電話で伝えた
それから職場に父親危篤の事情を知らせて急遽早退した
兄貴から教えられた地元の病院に向かってハンドルを握っていた
運転しながら景色が涙に霞んで霞んで止まらなかった
俺にとって父親は反発と近親憎悪の対象でしかなかった
筈なのに
その時の俺は全てを赦していた
瀬死に横たわる父親が脳裏を駆けめぐって