輪廻かな
こたきひろし

親父が脳溢血で倒れた日
電話が掛かってきた
親父本人から

「ひろし、今すぐ俺に会いに来い!」
それは命令口調だった
「どうしたんだよ父ちゃん?何かあったのか?」
すると父ちゃんは言ったんだ
「父ちゃんはもう長くない。父ちゃんの死に目に会いたかったら直ぐに来い」
「悪い冗談は止めろよ!元気そうじゃないか?」
俺は聞いた「今何処にいるんだよ?」
親父は答えた「病院だよ」
「嘘だろ?生き死に境にいるなら電話なんか出来る訳ないだろ!」
「これが嘘だったらお前なんかに電話するかよ。お前みたいな親不孝もんに」
親父が言って直ぐに電話は兄貴に代わった
携帯電話からだったようだ
「父ちゃんが直接お前に電話するって聞かないんだ」
兄貴に代わったら全てがにわかに現実になってしまった
俺は身が震えだした

俺は直ぐに嫁さんに事実を携帯電話で伝えた
それから職場に父親危篤の事情を知らせて急遽早退した

兄貴から教えられた地元の病院に向かってハンドルを握っていた
運転しながら景色が涙に霞んで霞んで止まらなかった

俺にとって父親は反発と近親憎悪の対象でしかなかった
筈なのに
その時の俺は全てを赦していた

瀬死に横たわる父親が脳裏を駆けめぐって


自由詩 輪廻かな Copyright こたきひろし 2020-08-07 06:32:43
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