世界の中心って何処なんだよ
こたきひろし
今は昔さ
いっとき一世を風靡したっけ
小説とそれを原作にしたテレビドラマのタイトル
思い出したよ
思い出したけど
世界の中心って何処だったんだよ
そこはきっと地球の中心からはずっと外れていたんじゃないかな
そんな気がしてたんだ
今は昔さ
俺が子供だった頃さ
日曜日が来る度に
何処からかあらわれたんだ
もしかしたら世界の果ての辺りから
やって来たのかな
ほんとうにみすぼらしい身なりをした
父親らしき男と娘らしき女の子供が
二人共に何日も風呂に入ってないような
ボサボサの髪の毛と汚れた顔をしてたんだ
そして腹を空かせているんだろう
飢えた眼をしてたんだ
周辺の家を一軒一軒
モノごいをして回ったんだ
お金がいちばんに違いないけれど
辺りの家々もみんな貧相な佇まいばかりでさ
現金は反対に恵んで欲しい位だったからさ
僅かに
米とか野菜とかを施してやってたのさ
だけど
俺の父ちゃんだけは冷たく追い払ってしまったんだ
俺はそんな父ちゃんが嫌いになっていったんだ
ゆるせなくなるくらいにさ
それで俺はある日
父ちゃんに内緒で家の米や野菜とかをあげたんだ
それが父ちゃんにバレてさ
酷く叱られたんだよ
普段は父ちゃんに言いなりだった俺も
つい反発して言い返してしまったんだ
「父ちゃんには人の血が通ってないのかよ!あの二人が可哀想だと思わないのかよ!」
そしたら父ちゃんは言ったんだ
「みんな騙されているだけさ。お前もな。あの父娘は
町で米や野菜を売って金に替えているに決まってるんだ。この食糧難の時代だからな、その位の事はするだろうさ。父ちゃんだったらそうするから、あの父親だって同じ事をするだろう」
俺は父ちゃんの言った言葉には到底、納得出来なかった
それは捻れた心からわきあがる考えだとしか思えなかった
今は昔さ
昔なんだけどさ