夏空


ポプラ通りの真ん中らへん
すべすべの感覚で
まぶたを閉じれば
少年を見つけられる
少年は息を止め
そっと手を伸ばし
とんぼの羽根をゆびさきでつまむ
瞬間を点でとらえたのだ
でも虫かごには入れない
複眼と目が合い
ことばを聞いた
宙に 高く 放つ
空はポプラの木々に狭められて
ひどくあざやかな青が
ひとりきりを際立たせるので
少年は麦わら帽子を
草むらに投げる
取りに行ってはまた投げる
ふつうのことが簡単じゃなかった

ゆびさきに焼き付いた
細とんぼの羽根の強く弾く力を誇りに
どこにも繋がらないまま
夏じゅう
空っぽの虫かごをぶら下げて
鳴り止みそうもない蝉しぐれを
胸いっぱいに吸い込んだ
ポプラ並木の真ん中あたり
壊れかけの麦わら帽子をかぶったまま
まぶたを開じている



自由詩 夏空 Copyright  2020-08-02 02:50:10
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