竜門勇気


ぼくは今日、ぶちこわされて帰る
派手な火花とは無関係さ
みたことはあるんだ
見たことがあるっていってんだろ
派手な花火
昨日までまともだった
いいやつだったんだ昨日までなら
今日に至っては狂人扱いだ

ある日まともなやつがぶっ壊れる
棚に手をかけてこっちを見る
棚はぼくが日頃、糞が積んであるだけの便所のまがい物だと思っている
目が合う
ぼくはその棚に次の糞を並べる段取りについて
活発な意見を交わそうと話しかける
建設的な話だよ
糞でできた糞のような形をした糞を作ろうってんだ
建設的な話題であることが疑いようがない

彼はいいやつで 少し有能だった
だから少し無能な人間よりは酷使されていた
悪いやつで、少し有能な奴らよりずっと酷使されていた
彼はそれが不思議なことに不本意だったらしい
「あいつらは、人間ぶっ壊す実験でもしてんのか?」
多分、そうだと思う

彼はいいやつだった
糞の積まれた棚に手をおいてぼくの方を見た
じゃなきゃそんなことしないだろ
ぼくはやつの中身は違うもんになってたことが
そんときわかってた

ぼくは無能で少し悪いやつだ
目があって 床のゴミクズに視線をやった
とてつもなく、ゆっくり
自分ではそのつもりだった
そのそばにいた人がぼくは逃げるように下を向いたと言った
なにか 自分のことで確信するなんてのは
バカバカしい話だってことさ
いいやつだった彼は
糞が積み重なった棚を引き倒した


そして ぼくが悪魔だと言った
静電服がちぎれる音がするのを聞いていた
殴られて 殺されるのだと思って
覚悟の仕方を考えていた
「お前が私の母親をレイプした」
「お前が政府にほのめかし工作をして私の研究を台無しにした」
「どうして、妹が癌になったかわかるか、どうしてわかるのか」
彼はいいやつだった
彼が叫ぶたびに震えるまぶたからいいヤツの切れ端が飛んでくる
悪魔のメガネにその涙がぶつかるたびに
蛍光灯のやけに明るい光が虹を一瞬作って消える

ステンドグラスのような形の破片
ただ そいつらは黒くてそこいらの光を跳ね返すだけのシリコンだ
ぼくはかれの悪魔だった
そうだったんだろう
ぼくはかれにとって悪魔だったんだろう
ただ かれはいいやつなんだ
いいやつであろうと歯を食いしばって
自分にとってだけでもそれをやろうとして
悪魔の怯えた顔を見つめていた

ぼくは今日、ぶちこわされて帰る
いいやつなんてどこにも必要とされていない
そうだよな
いいやつでも、悪いやつでも
一生懸命生きようとしてても
必要じゃなきゃ要らねえよな
いらねえものはどうでもいいもんな

怖くて裏返られない
こんなクソみたいな気持ちが
裏返っても変わらなかった時
どうなるのかわからない


自由詩Copyright 竜門勇気 2020-07-28 14:02:21
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