L.S.D
れつら

この部屋にも窓はある
背丈より少し高い壁にひとつ
開けるとカラカラと風
視界の遥か上を通過する
気持ちいいでしょ と声が聞こえ
ると 口、
涎が落ち、水脈になり、
萎れた花に
手が伸び、それを抜き
捨て
る手を、呼び
止め     ない
(必死に訴えるほどのことでもない)
ただ 湿度は上がり続け
呼気と吸気の間に
初夏と梅雨が入れ替わり
目玉を動かす
さっきいたものが今は居ない
恍惚と残像が席替えをし
さっきしたいと思っていた尿が
今はもうどうしようもない
花瓶の水は排水口に
眼球を裏返すことができないように
僕をあなたから見つめることができない

*

ロング・スロー・ディスタンス

週3回を下回ってはならない
週5回を上回ってはならない
1回あたりの時間は1時間を下回ってはならない
1回あたりの距離は15マイルを超えてはならない
週1回は2時間以上走り続けなけらばならない

僕らは一生のように走った
僕以外は、まだ走っている

律儀に毎日を呼吸し
定期的に眠り、定期的に走る
僕は優秀だった 僕らは優良だった
あの草原の上で抱き合って過ごした
滑空する光線に ステップを踏んで
指先で曲げることだってできた
涼しい夏なので、いい記録も出ただろう

最初に走り始めるのは苦痛だった
立ち上がるたびに皆 喝采を送った
やがて手拍子になり止まない足音は雨に飛沫
水溜りを許さない
音楽を止めてくれ
生きてくれと言わないで
君も夜くらいは眠らないか


自由詩 L.S.D Copyright れつら 2020-07-26 16:06:54
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