満月の夜
道草次郎
誰が見てなくても
少しだけしっかりやろう
今夜は違うんだ
僕は姿勢をいつもより正して椅子に座ってる
君からの電話はいつくるんだろう
今夜は気持ちが少しだけ落ち着いてる
目もつむってる
深呼吸も忘れない
月明かりの下の湖に浮かぶボートのように
僕は
落ち着いている
じつは
一つも良い話なんてないんだ
でもそれを正直に言う必要なんてない
うん
今までと同じ間違い同じ事の繰り返し
そうかもしれない
でも今夜は君と言い争いたくない
なぜって
きっと同じ満月を
君も見てるから
君は
相変わらず困ってて
誰かにすがりたくて
すぐ涙ぐんでそのくせ怒っては口汚く罵ったり
つまりは
いつもと変わらないのかもね
だとしても
ねえ
たまたまだということしておこうよ
今夜は
僕らがこうして電話で話するのは
たまたま僕らが知り合いで
たまたま一緒に暮らした事があって
たまたま二人には子供がいて
たまたまいざこざの果てに同じ時間を共有してる
だからなんだって
星たちは笑うんだろうな
そんな
今更でめちゃくちゃな話
でもね
人が人と折り合うとか折り合わないとかそういうこんがらがった時
最後にはやっぱりどちらかが椅子にちゃんと腰掛けるものだと思うんだ
それまでよりも少しだけしっかりやろう
今夜は違うんだ
そう思うことからしか明日は始まらない気がするんだ
そんな
率直すぎる結論を望んだのって
僕でも
君でもなかった
僕らに流れた歳月が
自然と
そうさせたんだよ
この
満月の夜に