四から二へ/気質として
ただのみきや
その絵具セットには暖色がない
静止したかのような独楽を見つめ
もう一人の自分と根比べするかのよう
沢山もらったその中から母は
かたちの良いものをひとつ除けた
「お兄ちゃん用に」
茄子にはもう種が入っていた
無いところからでもかき集め
人は再び建て上げる
しかし心の中身を失えば
周りの気持ちに運ばれる者
野ざらしの骨のように残される者
眼孔の虚ろに他人の涙を点眼しても
セセリチョウが青草にとまったまま
――小さな花のふり?
「欺くためでなく
花になりたい気分 ただそれだけ」
二本の柳の暖簾の間から 遠く
一本の真っすぐな杉が見える
人が蠅のようにくぐり抜けて往く
旗はみな一様に靡いている
時の淀みが巻き上げる光の粒子
閉じた瞼の火の雲から釣り針が降りて来る
開かないガラス壜の蓋を必死になって
中は透けて見えているのに
わたしと言葉は互いの墓
羽蟻の群れる夜
河原の石は月の子を孕む
わたしの中から石女が這い上がる
喉から舌へ母音を引きずりながら
長い廊下の奥の暗がりで
砂粒のような原石を数える子供がいる
白く泡立つ夢
ゆっくりと
ナナカマドの若木に雀が一羽
秋になったら簪にしよう
そうしてまた渡せないまま
始まらないから終わらないまま
吐息 瞬き 黄色い蝶々
絵筆たゆたう行方も知れず
まろび出る沈黙の 韻律に
虫眼鏡で焼く 文字の匂い
天秤皿に盛られた昼は底まで降りて
冷まし切れないほつれ目が発火する
不動だったものが
うすっぺらに白く翻り
自分をロストした 女は
勾玉のように隙間の無限をさまよう
この夏の光をいつまでも孕んだまま
《2020年7月18日》