チャック
ゆるこ

自粛期間が明けてから
私の腹にジッパー付きのチャックが
度々現れるようになった

それは外側からも 内側からも開けられる仕様になっており
たまに内側から少しだけチャックが開き
体内から何か黒いものが
もやのような、言語のような、動物のような形で
滲み出すように出ていく

自粛期間が明けてから
私の子供たちが 時折
小さな受精卵に戻ってしまうことがある

私はそれを見つけるたびに チャックを開き、
べろりと開いた 腹の中にしまう

そうすると、少しずつ

人間だった時のことを思い出すのか
手を生やそうと動いたり、足を生やそうと回ったり
時折ノイズのような音を発しているので
多分喋っているのだろうけれど

私の耳には到達しない言葉なので
私はしくしくと涙を流す

すると、途端に腹の中から出てきて
りっぱな青年の姿になり
大丈夫 と、私の頭を撫でながら言うのだ

自粛期間が明けてから
呪いのようなものが横行するようになり
私はまた そんな呪いに

泣いたり、怒ったり、苦しんだり、
救われたりしている




自由詩 チャック Copyright ゆるこ 2020-07-12 10:06:14
notebook Home