とある二編
ただのみきや
とある一
――――――それは
俯く若葉のこらえきれない涙
朝には珠となり蜘蛛の糸を光で撓め
――――――それを
誰が量ったか
人も地も飲み切れず地も人も飲み込むほどに
問うこともなくそれが弾き始めると
ピアノは崩壊した
黒鍵は地に暗く浸透し
白鍵は飛沫となりそれを覆う
不協和音ですらない轟きで
わたしは泥土に暴れ狂う竜になりたい
でなければ静かに開く白蓮に
だがこの身は土器のかけら
炉を通らずに再び泥と入り混じる
形も朧な器だった
人は魚であることを
疾うに辞めていたが
いつまでも翼は生えてこなかった
どうか人の辞め方を教えてほしい
稲光が来てから衝撃が響くまで
ぽっかりあいた一瞬が永いのだ
死に始めてから死に終わるまで
見交わす顔がどこにもない
とある二
影を見ていた
影という名を持って呼ばれる
目や肌で感じる日向との差異
遮断された光の切り絵を
感覚と言葉による非在の存在を
「あると思えばあり ないと思えばない」
闇を見ていた
光の欠如につけられた名
見る目に映る闇 見えないを見つめ
見えないから瞑る
耳や肌や鼻がいっそう捉えようとした
見えないだけのなにかを
「わたしは『わたしはある』という者である」
千日手のチェス盤を距離や角度を変えて眺めている
なんと火照った果実だろう
迷いも悩みもありはしない
10tダンプが運び去るわたしの残骸
――アーア
それ! ちゃぶ台を反し
ここに世界は降り注ぎ
言葉もこうして生えてくる
タケノコならぬ毒キノコ
筋はなくても色味と効き目
論じるよりも実践だ
歌って踊って芸を見せろ
それが真理のハナクソだ
それが幸運なデッドボールだ
ケーキをぶつけられたお前はまるで
白く美しい天使じゃないか
とっくに油は切れている
愛しいわが身 淫売よ
夜明けまで飲んで忘我の眠りに就くといい
《2020年7月11日》