盲目
アラガイs


渓流を下ると川幅は急流に狭くなる
浅瀬から水を撥ねた石には硬骨の節がある
隠れ鰻のように蛇行を繰り返し
河原に辿り着いたのは強固な意思に違いない
嘆く陰翳の底暗さの中に一点の灯りを見出したのだ
それは絶望の澱を手繰り寄せる糸に違いない
非と凡人ならばそう考えもするだろうか

    置き去りにされた疎石にも意思はあるんだよ

男は呟きながら河原の足下を探して歩く
小鳥のような獣に近い喉の響きが渓流から谷を越える
 瞑想と幾年月を暗闇の廊に繋がれた金糸雀(カナリア)
 喧噪から鉄釘と打ちつけた壁に塞ぐ眼と耳を
              陽は天上の隙間から差し込める  
 微かな光彩の調べ   陰翳に照らし出す鏡   杖は要らない 
いま蘇る景貌
               指先に伝わる  震え
うつるものはすべて音になりひかりにあらわれるかすかなひかりのなかでカタチがみえてくる 
  モノ カタチは要らない 瞼は振動に鼓動する 音が旅をする いのち  
    感性  映るものすべてが現れ 洗われる

鰻は清流の水底に眼を浸す
小石を拾い上げては磨き 男は眼を瞑り河原を歩いている
  その稀有な混声に喉を圧し殺すこともない
支流から本流にかけて尾は蛇行を繰り返し 強固に研ぎ澄まされた鰭
 鋼の賜りものが波に浚われる
琴線に弾けては形成される 音
硬骨の節と麗しい響きを残して





自由詩 盲目 Copyright アラガイs 2020-07-06 03:44:12
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