ハエトリ紙
ゆるこ



琥珀色のぬらりとした
リボンのようなハエトリ紙を
白い壁の間借りした部屋に垂らす

夕焼けに光るそれはまるで
蜜をたらふく蓄えた大樹のようにみえて、

懐かしい実家の情景を誘ってきた



すべてが乱雑な部屋の中で
膝を抱えてうずくまっていた
剥がれた絆創膏をなんども直しながら
ただ、うずくまっていた

ぼうぼうな家の庭に
トンボが影を落としていった
誰もいない台所には
コバエがぶんぶんと 集っていた

いつ伸ばしたかわからない
べたべたになったハエトリ紙
夕焼けにぬらり、と光り
それっきりだった
そう、それっきり




台所の陰から
あのころの私がこちらを覗いている
夕焼けのなかでぬらり、と
影法師を伸ばしている





自由詩 ハエトリ紙 Copyright ゆるこ 2020-07-04 23:39:17
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