給料日
道草次郎

だいぶ昔の事だけど給料日

いろんな支払いをして残った6974円を握りしめて帰ったね

いつの間にか7000円の大台へと脳内補正がかかっていたっけ

君には言わないこの7000円で、ぼくは君と一緒にすかいらーく系のしゃぶしゃぶ食べ放題の一番安いプランを食べに行くことを考えたりしながら家路を急いだっけ

ただいま、と扉をあけると、すぐにお帰りと返事があって少しよそよそしく君は料理を作りながら僕の方を見もしなかったね

それがいつもの日常
ぼくは手を洗ってうがいも丁寧にイソジンでして給料の事は一言も言わなかったっけ

君は大きいな俵型のハンバーグを無言でお皿に並べながら、蒸かしたジャガイモにつけるマヨネーズを片手に持っていた

ぼくの脳内で補正された7000円はしゃぶしゃぶによってすでに4000円を切っていたけれど、今夜のこの食卓できっとぼくは君の好きな、とにかく君の好きだった水族館へ行くための原資を確保した事をそれとなく君にチラつかせただろう。

君はきっと喜んでくれて。

ぼくはもっと君の笑顔がみたかった
だからコンビニでは下ろせない数百円の端数をこっそりわざわざ銀行の窓口でおろして、行きのコンビニで二人でつまむから揚げを買った

君はぼくと暮らして
たくさんのから揚げを食べたけれど
そんな事
君はとっくに忘れてしまったのかな
それともよく覚えてるのかな
まあそんな事どうだっていいのかな

君がぼくの前で泣いて憎しみの眼を向けた時
ぼくは死にたいとねがい
それと同時にもう一度君を幸せにしたいともねがった
それをもう君に伝える術はない

あの給料日の日
ぼくは7000円の幸せな男で
君はハンバーグを作ってくれた


自由詩 給料日 Copyright 道草次郎 2020-07-02 17:10:06
notebook Home