目が覚めたら
こたきひろし
目が覚めたら
朝からどんよりと疲れている私とその身体があった
昨夜は熱帯夜だった
ダブルベッドの上で
乱れた寝具は汗と脂のイヤな匂いがした
人それぞれに体臭がある
人それぞれに口臭もある
朝はそれが如実にあらわれるものだ
男と女がひとつの屋根の下に暮らして
人のつがいとなって棲息するという事は
お互いの体臭と口臭を否応なしに共有するという事
なんだとずっと感じていたんだ
感じない訳にはいかなかった
その匂いを許容し合えることが
愛情なんだって確かめあえるほどには
成熟しあってはいないけれど
目が覚めたら
もはやいっときだって肌身から離せなくなった携帯を
手に取って時間を見てしまうのは
毎朝の事だ
ベッドの上には妻なる女が
鼾ではなくて寝息をたてていた
きっと浅い眠りなんだろう
幸福感は
それを鋭く意識していないと
たえず見逃してしまうような気がしていた
そんな気がしがしていた
勿論
そんな思いに無意識になれてしまえる自分もいた
それが占める時間がほとんどだったし
何も考えない事に解放されている自分がいた
なのに
目が覚める度に
毎朝妻に背中を向けてい横たわっている自分がいた
二人分のベッドの上は
不毛の荒れ野の匂いがして
それを拭いきれない
それを敏感に感じてしまう自分もいたんだ
目が覚めたら
朝からどんよりと疲れている私と
その身体があった