6月の日記
印あかり

6/1
古いカメラのように瞬きをすると
紫陽花から滴る雨粒が
カリッ、と網膜に光の線を引く

6/2
すれ違う人の柔軟剤の香りにときめいて
振り返ると、彼女の背中に
斑点だらけの黒ずんだ心が透けているのに気づく

6/3
BOOK・OFFの100円コーナーに
恋人と読んだ絵本があった
ただの切り株になるまで
わたしのために尽くさないでね、って
思うのだけど
実や枝や幹くらい惜しくないなあ

6/4
小さい頃集めていたあれが
「石英」というただの石だと知ったのはいつだろう
怒ってばかりのお母さんが
そういう病気だと知ったのはいつだろう

6/5
赤ちゃんの見る青色は一番正しい青色なので
この、職場のユニフォームは
青色に見えていないのかもしれないなあ
だから泣くのかな
わたしも泣きたいよ

6/30
眠剤でとろとろになった身体は
一旦宇宙の仕組みに組み込まれて
その後、愛しい人の腕の中に返される
細胞膜が無いので一瞬でセックスができる
素敵な言葉がたくさん産まれてしまう
育てる親がいないのに
なんて無責任なこと
でも気持ちいいからもっともっと、って
わたしは今にも死にたくて
詩を書くからね
詩にするから許してね、って
あなたの瞳の暗いところは
わたしが昔閉じ込められた納屋に似ている


自由詩 6月の日記 Copyright 印あかり 2020-07-01 22:21:17
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