棄園約定
木立 悟






空に生えた逆さの地から
何かが幽かに降りつづく
鉄の網目を埋める鳥
花の名を鳴く 花の名を鳴く


暗がりの奥を転がる音
崖から指まで 静けさに紛れ
時おり色になりながら
より暗い方へ より何も無い方へとわだかまる


眉毛の無い水たまりには
すぐに命が溢れるというのに
欠伸の泪は捨てられるばかり
紙の翼に消え去るばかり


街路樹の葉が砕けるとき
夜に開かれた窓が閉じるとき
ひとつの楽器の奥の奥に
渦まく森を呑み込むとき


みどり みどり
冷たさをふちどる
十二本の指
空を削ぐ球


気付かぬうちに肘を刺され
気付かぬうちに原を越える
振り向くとむらさきの足跡が
夕暮れの光にかがやいている


水と水がこすれ合う音
暗がりの柔毛 腕の卵
さわる さわる
さわさわさわる


ひとつの園の終わりに立ち
土の上の羽を聴いた
糸の発芽 たなびく一面の
花の名を 花の名を聴いた


















自由詩 棄園約定 Copyright 木立 悟 2020-06-17 09:21:12
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