栄養
ゆるこ

鍵をかけて、

夕暮れの、まだらな空を閉じ込めた
マジックアワーと君の境界線がぼやけて
滲んでいくよ、私の目の前で

蜻蛉が 飛んでゆく
飛行機雲の上をなぞって 飛んでゆく
左手の缶チューハイから零れた滴が
とても綺麗なこの今 弾けている

神社の裏から味噌汁の匂いがする
夏の夜の空気に混ざって 私の胸いっぱいに広がる
蚊取り線香、鉄棒の錆びた光
湿った草の香り
逆光の中歩く 黒い影ふたつ
田園の畦道を 自転車を並んで押してゆく

ひとつづつ刻んで

夕暮れが終わる頃に
喧騒の中に産まれ堕ちる前に
目の裏側の
懐かしい日々に

鍵をかけて、

たまに 少しだけ
食べにこよう


自由詩 栄養 Copyright ゆるこ 2020-06-14 18:11:27
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