雨漏り
あらい

視線はとうに落ちかかる薄明の世、
方角を奪われた腕は 針を持つのを弛める
無論堕ち刺さるのは己の胸へ 濃淡の淵を
縫うように咽ぶ喘鳴が助長していたどころか、
赤銅に威ぶる陽の眼底から
あやふやな蟲共がわらわら這出るばかり
わたしと 活化す蜚蠊。
此奴らすら住処を喪うのでは 哀れであろう等と
のたうつ謀りに隅々 蝕まれて居る。
これを強いて好いて要るのだと ひたすら無心に浸る

とこしえの雨漏りは何処迄も溺れさせ
然し之を好いているからこそ、この場

音色は奏で響きを齎すのだと
空き巣はこともなく偽りを吐きだす。
その吐息は頑なに自室に閉ざされているが、
蓋は無いので漏れている紫煙

いつか誰かに見つけられることを信じて魂を灯す
もう足の腐った、地に這えた、黒い塊でしか

ない
どこにもない

私が私たる所以も誇りもあるようで触れもしない
己が思い出しかない音色を口ずさむが
誰が認めてくれるのだろうか
もう既に嘘も真も無いほど遠く風化した形に鳴る

いやいや今現の時の流れに介錯され
死んでいく今の流れを如何にして、
汲み取れるものなのか。

飲み干してしまえれば 底も見えようか
殻の空似、何があるのだろうか
飲み下され、そこらで脱糞を果たす
汚らわしい、まちびとを想う

小生
ピアノの音色を飲み込んで唄う
生きた雨粒を知った。今更 気づいた時に
水色のクレヨンで描く笑顔が素敵な
相合傘に移り変わる背中を押してゆく
斜陽のときに架かる虹を絡めたら
未来の端をそろそろ亘れると
運命を信じてみたけども
雨は止みそうで、病まないで、
このまま漂い続ける。春霞と酔いに奔る

流れ永されてこのまま
泥濘む満ちが現れる
川面に溢れる、大海まで、あと少しで
届きそうで、ぐるぐる、堕散る
わがこぶねは
澄んだ眺望に溺れてしまう
暈が増し続け、抉れた身を剥ぎ取り
渦に撒かれて終い。

らくにいきたいのに、ゆきたいのに
まだ、視界は澱んだ檻の中だ

地団駄踏んで固めた蓋は其処で
底にも鳴らない底なし沼で終の住処と致し
足掻いたところでどんづまり、
天に曝サラに開ける空木

どうせ皆々死んじまう
虹を移した水面の揺蕩う眼の奥でいい
ずぶのずぶ迄ずぶ濡れた あんたも私も濡れ鼠
助けも来ない樹海の奥で
どうせ出逢ったものですが
少し許りを悦んで 共に沈んで逝くとする
辞世の句、於戯


自由詩 雨漏り Copyright あらい 2020-06-14 15:11:57
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