音のない部屋
メープルコート


 音のない部屋の窓からしっとり濡れた庭が見える。
 泣き濡れた空に向かって紫陽花が優しく微笑む。
 ゆっくりと窓を開けると夏の匂いがした。
 季節が移り変わろうとしている。

 やがて誰も居なくなるのだろう。
 子供は大人になってこの地を離れるだろう。
 娘は成人して愛する人のもとへ旅立つだろう。
 残された者達にほんの少しの哀愁を残して。

 今はただ穏やかな日々を送る。
 淡い影を落とす蝶々のように。
 葉擦れの音だけが現実味を帯びている。

 天気と共に私の病も良くなるだろう。
 ゆっくりと一つずつ道標を消して行こう。
 命のコンパスは赤く滾っている。
 


自由詩 音のない部屋 Copyright メープルコート 2020-06-12 05:52:09
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