音のない部屋
メープルコート
音のない部屋の窓からしっとり濡れた庭が見える。
泣き濡れた空に向かって紫陽花が優しく微笑む。
ゆっくりと窓を開けると夏の匂いがした。
季節が移り変わろうとしている。
やがて誰も居なくなるのだろう。
子供は大人になってこの地を離れるだろう。
娘は成人して愛する人のもとへ旅立つだろう。
残された者達にほんの少しの哀愁を残して。
今はただ穏やかな日々を送る。
淡い影を落とす蝶々のように。
葉擦れの音だけが現実味を帯びている。
天気と共に私の病も良くなるだろう。
ゆっくりと一つずつ道標を消して行こう。
命のコンパスは赤く滾っている。