紙一重の余蘊
あらい

しかし最後に眺め観る青い海は明瞭であった
水平線の奥に点となる。岩場が光でチラついて
浮標であろうがやたら気にかかる揺蕩いなのだ。

不意にぐっとへこんだうねりから風の音が停るのは
首に鎖をまわした、ゴツゴツとした背を見せる、巌イワオ
あなたまでが陸続きであったと仄めかす性器を掬って
枕の隙間に置いた 愛の受け皿はけっして口にしないで
草原を走る狐憑きの夢は夜に拓いた月光花を不可もなく抉る

代われたなら幾ばくか泣き疲れて眠りを育くむ
(子守唄、瓶詰の遺書)
楽に陥れる。堕胎した/妹は/うみにかえり
(どうか、確かめねば)
寝息を途切れさすことも厭わずに
(あれはいくつかの時に亡くなったはず)
わたしの虚勢と共鳴する

そこに今はない。羽根を纏いて置く奥に
ゆめであえたからこそ海岸線をなぞらえる旅に出た
生と死の狭間を辿ることとする、
人類全てきょうだいではなかろうかと。

紫陽花小道は灰色の空に愛されている
公園は今日も賑やかな色をしんと傍に添え
雨に塗り替えられたベンチに、そっと視線の熱を落とす

終わらない深淵に崩された秘奥の群青がある。
白く泡立つ波に、面が立ち騒ぐとも
蝙蝠の葬列に参る若い烏がおかしく哭き喚く
白い牙をむく、荒波も
惜しげもなく小首も傾ぎ、
そのうち太陽の熱波は私に何かを訴えるよう、

誰かの生首が腰を据えている。明日の天気は
蓼沼に生息す 鬣燃ゆる 陽の残照とする。
今夜も きっと我が物顔で 火を灯す 働き蜂が
絣の紅葉、胸の内に 楚々と油を注ぐのだろう。

擬声を伝える水銀計は十九時の焼け跡を記す
模した心が爛れては傷んだ深草シンソウに静め
虚勢を張りぱちゅぱちゅと崖にうちつける、
これが溶けかけた夜。
南月が凪いだ波上すら、どこまでも、なだらかに栄える

あますところ、スケープゴート
あなたに身も心も捧げていた、月の影


自由詩 紙一重の余蘊 Copyright あらい 2020-06-10 00:32:40
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