まぼろしの午後
ホロウ・シカエルボク


世界の端っこで
瓦礫にくるまれた
十代の残滓を

山道に捨てられた
切り裂かれたタイヤの
あちこちに散乱した破片を

白紙のノートを
汚すことはもう出来ない
指先のみで
脳味噌だけの絵を描く

コンビニの空袋が
首吊り死体のように
梅の木の枝で揺らいでいる
あまり
気にしなさんな
じきに
さらわれてしまうから

鳥でも脅しているのか
誰かが手を打っている
いらだちのように
懇願のように

誰だって
自分のために生きている
言い訳をしないだけ
鳥のほうが正しい

フライパンの上の六月
眩暈のなかで
ペットボトルの底
わずかに残った安らぎを終わらせる
肉体を
砂時計にしようと
たくらむかのようなリズムで



数滴

太陽はきっと
いくつもの憎しみをその腹に飼ってる

トンネルのなかで
こだまするエンジン
アクセルにどれだけの意味がある
どこへたどり着くための
どこを目指すための加速
よもや
わけもなく急いでるなんてことはあるまいね
大人なんだから

呪詛の代わりに鼻歌をうたおう
シャツはすっかり身体に張りついてしまった

おまえ、いくつになった?と
もういない友だちが話しかける
その問いに答えたあと、ふいに
存在があやふやになる予感がした
ペインキラー、そいつじゃなければ
たぶんどうにもならないだろう
なにも
痛みなどないけど
おそらくは

傷を感じ過ぎた

空は
押しつけがましい交響楽団だ
徹底的に音譜を叩きつけてくる
ドイツあたりのホールを覗いてみれば
こんな演奏が聴けるかもしれないな

乾いた口のなかで唾を転がして
あしもとに吐き捨てた
逃げ水に飛び込んで
どこにもない影になろう

夏の終わりには
誰かが気づいてくれるだろう


自由詩 まぼろしの午後 Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-06-09 00:23:57
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