八分の五拍子
太郎本人

頬に刻まれた皺、真っ黒な白髪染、おそらくは更年期障害後半、で態度も言動も女であることが、いや人間であることも微妙に疑わしい女占い師がとつとつと、スタジオのギャラリーに、カメラの向こうのお茶の間の人々に、世界の終末について予言をしまくっている。
えー、とか、おー、とか、きゃー、とか驚愕するギャラリー。
そこへ突如、ひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男がスタジオに闖入。
えー、とか、おー、とか、きゃー、とか驚愕するギャラリー。(先ほどとはいささか違う趣であるが)
ひょっとこだからどこを見ておるのかわからぬし、場違いなことこのうえない。
ひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男は、音頭も踊らずまっすぐと、つかつかと、無言で彼女に向かっていった。
はたしてひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男は、彼女の正面に立ち止まった。
女占い師がひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男の下半身についてか、ひょっとこのお面についてか、とにかく明らかに彼を批難しようとしたその刹那、ひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男は右手を後ろに回し、腰に差していた蓑ならぬ鉈をやにわに振り上げ、女占い師の脳天を薪割りのようにカチ割る。
えー、とか、おー、とか、きゃー、とか驚愕するギャラリー。(先ほどとはかなり違う趣であるが)
ひょっとこのお面に、丸出しの下半身に、頭の豆絞りの手拭いに、
飛び散る脳漿と返り血。
そして、ひょっとこのお面を被って下半身丸出しの男は阿鼻叫喚のスタジオ内をぐるぐる回って、へんてこなリズムで音頭を踊る。
竿が上下左右に、玉が上下左右に、
揺れる。

サタデーナイト・フィーヴァー バイブレーション 揺れて
サタデーナイト・フィーヴァー バイブレーション 震えて
「今週から土曜日が一日増えました」

リクルートスーツ七三分けの群衆がキチガイ水を飲んだくれている
石で出来たライオンの口から古く酸化したサラダオイルが流れ出ている
ビルの狭間の腐れ金玉が転がって壊れたベビーメリーのメロディーが流れる
人工の浜辺ではひと形のちんことまんこが内容の何にもない会話に戯れている

翌日、ひょっとことおかめが朝から交わっている
すべては真っ赤に血塗れて美しく歪んだ日曜日の朝にむかってゆく
皆、どこを見ておるの? なんてへんてこな、リズム


自由詩 八分の五拍子 Copyright 太郎本人 2005-04-13 00:28:58
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