病院船
カワグチタケシ

光と影の中で
息を詰めている
都市と星

船は極地の上空にあり、
眼下の地球は
完璧な半球となって見えていた
昼と夜を分かつ明暗境界線を
見下ろしていた

境界線のうち、真ん中から半分は日の出を
もう半分は日の入りを迎えている

リムジンボートが停泊する
ドックの海水は淀み
付着したフジツボに
塵芥が打ち寄せられている

病院船が入港しないので
下ろされたままの跳ね橋を
まばらな人たちが
往来している

人間の事情などお構いなしに春の花が咲く
たとえ人類が滅んでも
この花々は咲くだろう
人間の都市計画に合わせて配置された街路樹のかたちのまま
いずれ街路樹は徒長し、雑草が増え、都市のフォルムが崩れても
この花々は咲くだろう

ドトールコーヒーの前の満開のハナミズキ
暗渠の蓋の上の細長い公園の桜の樹の下で
かつて地球と呼ばれた病院船の甲板で
人間の家族がパンを食べている


Contains sample from A.C.Clarke

 


自由詩 病院船 Copyright カワグチタケシ 2020-05-03 11:18:23
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