みかんゼリーとブルーベリーソース
牧村 空太




      夕暮れ時がそこにはあった



      透明なゼリーに閉じ込められた
      みかんの間を
      飛行機は泡の尾を引きながら
      西へと飛んでいた


      夕暮れ時のみかんゼリーは変幻自在
      飛行機がスピードを上げれば
      その行く手を拒むかのように硬くなり
      スピードを落とせば
      水のようにやわらかくなった


      飛行機のスピードは
      ゼリーを固めるには少しだけ遅いらしい
      固まりきれないゼリーからは
      みかんのつぶが少しずつ流れ出し
      まわりに垂らしたブルーベリーソースが
      つぶの隙間に染み込んでいく



      あぁ
      もしあの夕暮れ時を
      完全に固める事ができたなら
      時間をさかのぼり
      過去へ行くことが
      出来るんじゃないだろうか
      祖父を失ったあの夏に
      戻ることが出来るのではないだろうか


      流れ出すゼリーを両手ですくうように
      喉が枯れるような思いを抱きながら
      飛行機の窓の外を眺める私の時間は
      夕暮れ時の流れ出す速さと同じだった



      


自由詩 みかんゼリーとブルーベリーソース Copyright 牧村 空太 2005-04-12 02:53:06
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