蜘蛛は蜘蛛と戦う
竜門勇気
窓辺の席で高校の最後の年を過ごした
この記憶で誰かに伝えておきたいことなど無い
何も起きはしなかった
窓の外で歩き回る人たちを見ているだけだった
終業式が終わったあと、少しだけ教室に残っていた
友人と出かける一群がわずかにうごめいている
仲良くもないやつが言った
「カラオケにでも行かないか」
みんなはそうするのかもしれない
やつは3人ほどで連れ立って教室をあとにする
この部屋の中では何も育たなかった
男子生徒の中で卒業式の日までに進路が決まっていたのは一人
あとは明日からフリーターか無職だった
俺は無職になる
何も決まっていない憂鬱の影が太陽と逆に部屋を回る
生活は何も変わることがない
バンドの練習がない日に学校に行っていたのが
部屋でギターを鳴らす日に変わるだけだ
親からくすねたビールの缶
空っぽになったまま部屋のあちこちに散らばっている
逃げ込んだ場所が住処になる
追跡者のない逃亡生活が始まった
まだ窓際で暮らしていた日々が
体のどこかにある
一度ずつ見た一年の空白が
今も続いている
ひと繋がりのむちゃくちゃを
通して世界を見ている