蜘蛛は蜘蛛と戦う
竜門勇気


窓辺の席で高校の最後の年を過ごした
この記憶で誰かに伝えておきたいことなど無い
何も起きはしなかった
窓の外で歩き回る人たちを見ているだけだった

終業式が終わったあと、少しだけ教室に残っていた
友人と出かける一群がわずかにうごめいている
仲良くもないやつが言った
「カラオケにでも行かないか」
みんなはそうするのかもしれない
やつは3人ほどで連れ立って教室をあとにする
この部屋の中では何も育たなかった

男子生徒の中で卒業式の日までに進路が決まっていたのは一人
あとは明日からフリーターか無職だった
俺は無職になる
何も決まっていない憂鬱の影が太陽と逆に部屋を回る
生活は何も変わることがない
バンドの練習がない日に学校に行っていたのが
部屋でギターを鳴らす日に変わるだけだ
親からくすねたビールの缶
空っぽになったまま部屋のあちこちに散らばっている
逃げ込んだ場所が住処になる
追跡者のない逃亡生活が始まった

まだ窓際で暮らしていた日々が
体のどこかにある
一度ずつ見た一年の空白が
今も続いている
ひと繋がりのむちゃくちゃを
通して世界を見ている


自由詩 蜘蛛は蜘蛛と戦う Copyright 竜門勇気 2020-05-01 17:57:53
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