花環
むぎのようこ

あたりは春
野にいちめんの花も散るのに
舞いおどっては降る
日射しのまにまに
わきあがる水の記憶

たおやかに鎮められた
あぶくが
とどまっている
硝子細工みたくしんとして
萌ゆる日もとおく
しずかなふゆの森で
わずかな明るさも雪が
掠めてはさらさらと埋もれる
ほどけることも
とおくになってやがて
口をつぐんだまま
眠りにつく

唇はあおく冴えて
陽に
融けてはながれだす
言葉の散った
世界ではここは羽音ひとつすら
顔をもっていて
雪花は何度もいのちをめぐらす、
継ぎ目のない環を
ながめているうちに
日は鞣され
たいらかなこころで震えている

いつの終わりも
はじめられてしまう何時からか
器から水はあふれて
とめどなく定められて
傷を
つけあううちにも呆気なく
限られてゆくのに
誰にも何にも
とめられることなく流れる

そうして水になって
あたりは春
野に一面の花になる
無垢なまま散っては枯れ
朽ちてゆく
野は
木々に埋もれる
また
いつかの春を浮かべて
夏や秋に冬を
越える
めいめいに身体に刻まれた
川を流れて水になって
ときを渡る






自由詩 花環 Copyright むぎのようこ 2020-04-30 22:49:51
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