矢のように僕をつらぬけ、縄のように僕を結べ
竜門勇気


夕暮れの真っ赤な太陽が
窓をオレンジに色に染めている
何日か前にためたままの
水が詰まった湯船に泡立った垢が浮かんでいる
歪んだプラスチックのつまみをひねる
浴室を出る
浴室にある空気を吐き出す
まるでかつてそうだったように透明に

もう思い出せないくらい昔
どこかで摘んできた雑草
カラスノエンドウ
食えないほど古くもなくて
美味しいなんて思えないほどは時間が経ってる
真っ黒に焦げ付いた鍋に
ちぎりながら落とす
僕が死んでいくことに理由はない
でもさ、お前のせいだよきっとな

夕暮れがまだ赤いうちに
濁った湯船に望んで沈むんだ
帰り道の浮かれて気分で
子どもたちが叫んで、黙る
いつだって分かれ道はあるもんさ
冷たい水と温もりが
怒り、静まり、混ざっていく
諦めて、哀れんでいる
まだわからない
あいつらには

自己の迷宮
なんでもいいか
僕は見ていた
真っ黒に焦げ付いた鍋の底で
青々とした
カラスノエンドウ
燃えて、赤くなって、黒くなっていく
黒くなって赤色は追いかけていく
その後に白い灰が残る
白い灰が二つキッチンで煙る

グツグツとのどかに風呂が沸いてる音がする
白く泡立つ垢の踊る様子が
救いのように思えた
その想像が神様が与えてくれた救いのように思えた
白い灰が二つこの街で
どこかから自由になる



自由詩 矢のように僕をつらぬけ、縄のように僕を結べ Copyright 竜門勇気 2020-04-23 11:32:39
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