しまパンえれじい
服部 剛

見知らぬ都会の夜
人ごみをかき分け
「すみません、手相の勉強をしてる者ですが」
の声を会釈でよけ
もぐりこんだカフェでコーヒーを1杯

( 日中の時間ときは遠き夢なり )

老人ホームの節分で
じいちゃんばあちゃん達投げる
お手玉の 嵐 嵐 嵐!
「ひぃぃ〜」とうずくまる泣きべその赤鬼・・・
・・だった俺がはいたしましまパンツのゴムはゆるゆるで
「こまったなぁ」と頭ぽりぽり
がにまたじゃんぷではき直す
俺の頭を回り始める1つのメロディー

「はっこう はっこう 鬼のパンツ
 はっこう はっこう 鬼のパン!2ぅー!」

とVサインしてた頃
半ズボンで冬の校庭かけた頃・・・

初恋の女の子はスカートをめくられるより先に
次々と男の子達の急所にストレートパンチを御見舞し
「ちんぼ」というあだ名を与えられた(ノンフィクション)

今から10年前
そのから青い封筒が送られてきた
あの時 なぜ 返事を書かなかったのだろう

数年前 列車のガラス越し
プラットホームを歩く
その娘の目に差していた影に
水晶のひと粒を垣間見かいまみ
あの夜 なぜ 列車を降りて 声をかけなかったのだろう

今となっては同窓会にも姿を見せず
音信不通の「ちんぼ」さん

( 過ぎゆく日々は遠き夢なり )

煙草の味を覚えた頃に 忘却はすでに始まり
煙とともに静寂しじまへ消える 場面の数々・・・・・

あの頃 夏休みのキャンプで お米を忘れた僕に
その娘はご飯を分けてくれたっけ・・・

・・そんな感傷日記のページは
手のひらに丸めてゴミ箱へ ポイ

大人と呼ばれる者達は 鬼のパンツを喰い込ませ
「明日の土俵」に立たねばならぬ

「はっこう はっこう 鬼のパンツ
 はっこう はっこう 鬼のパンツ・・・」

「見合って 見合って
 はっけよぉーい、残った!
 残った 残った 残った!」

ものの見事に投げられて 一人へこんだ更衣室
脱いだしましまパンツには 破れた穴があいており
しおれたカーテンの隙間から
あんずの夕陽がのぞいてた

見知らぬ都会の夜
空になったコーヒーカップ
開いた手の生命線を這う 銀の汗ひと粒

「占い師さん、あいにくですが 明日を知る気はありません」

コップに生けた黄色いバラが 呼びかけるように 少し傾く

( 過ぎゆく時間ときは全て夢なり )



   * 初出 メールマガジン「さがな。」 



自由詩 しまパンえれじい Copyright 服部 剛 2003-11-22 12:03:53
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