訪問
岡部淳太郎
今夜は雨もしとしと降っていて
もうずいぶん遅いから
誰も訪ねてはこないだろう
だから玄関に鍵をかけて
雨や風が外の空気を伝えてこないように
窓もしっかりと閉めて
ひとりで
瞑想するように引きこもっていよう
眠るにはまだ早いこの時間
上空を飛び交っているだろう
衛星が中継する電波も
地下を這う怨みのような想念も
すべて閉め出して
ひとりでいるのは
何という愉楽だろう
そうして
ゆっくりと目を閉じて
心をどこかに置き忘れたみたいに黙っていると
いまでは離れてしまった
かつて親しかった人たちの姿が
かたちの定まらない
ふわふわとした格好で
この胸のなかにそっと
入ってくるのだ
なんだ、君たちはそんなところにいたのか。
久しぶりの訪問に
懐かしくなって
彼等をひとりずつ
詩のかたちに
ととのえてやる
(二〇一五年七月)