風のテラス(ちいさな死)
草野大悟2
幅一センチ長さ二十センチほどの白い縦のラインが、床面から一メートルくらいの位置に、三センチずつの空間を空けて整然とならぶ、わたしの身長の二倍はゆうにこえるあたたかみのある厚い窓ガラスの内側に置かれた椅子に座って、光の粒子が硬質なガラスにあたって跳ねるようなビルエヴァンスのピアノにすべてをゆだねている。
窓の外十メートルの所に、青空に立つ不動の物がある。
ライトグレイ一色のそれは、どっしりと無口で、生い茂る草木の守り神のような佇まいをみせている。発せられる「気」はあたり一面を満たし、はるか昔に鬼籍に入ったなつかしい人たちをよびよせるのだ。
見えないけれどみえる人たちは、ライトグレイのそれよりもずっと無口で、コーヒーを啜りながら光の粒の跳ねる音に酔いしれている客たちと、ごくまれに、ほんの一瞬だけのやわらかなコトバをかわしたりする。
じんわりとしみこんでくるコトバは、客たちに、わずかばかりの違和感と、かなりの畏怖と、おおきな浮遊感とをもたらし、ながいあいだねむりこけていた足を踊らせる。
一面のガラスごしに見えるのは、ふきのとう。
もう雪がとけはじめ、レモンイエローの息吹が顔をだしている。
これは天ぷらにして、抹茶塩でいただくと最高なんだ。熱燗なんかで、
きゅーっとやりながらね。
君、無粋なことをいうんじゃないよ。
そのとおりだけどさ、たしかに天ぷらにして、生原酒なんかやりながら抹茶塩 で食すると、もうほかになんにもいりません、っていうくらい最高なんだけ ど、けどだよ、君、ここは、我慢だ。ひたすら耐えてレモンイエローの息吹た ちを愛でることだ。
そうしないことには、なつかしい人たちと交わることなんてできないんだ、と いうことに、気づいている者はたくさんいるように一般的にはおもわれている けれど、実は、ごくまれである、という現実を突き付けられたとき、君ならど んな反応を示すのだろう。非常に興味あるね。
わたし? わたしはね、君の思惑どおりの反応を示すよ、きっと。
今日は快晴。
わたしは、隣人の布団を干す。