今日、明日
墨晶
un pastiche, encore
きみが書く手紙の文字は読もうとすると揮発してしまう
ありきたりの半島とありふれた海峡
街を寸断する運河や暗渠 について
おそらく伝えたいのだろうが しかし
我々は会ったことのないふたりなのだ
我々の必然故に共有されたものたち
不可視の地形図を
聞く以前に知る幻聴を
オリーヴの枝を揺らす金色の風を
誰も(無論我々さえも)いない庭園を
手放すことによって(やっと)得る薄明
イーゼルのうえの姿見
古い木馬
暗闇で自転する緑の林檎
湯気立つ紅茶茶碗
見ようとする度すがたを変えるものたち
事物は描かれることによって見失う
彼誰刻前
デスクライトの灯りの下
オレンジの果皮の残り馨に似た
読まれることのないブルーブラックのことばを万年筆は綴る
交わし合った無名の象徴よ
そこになかったものたちは
当然懐かしい
そうだ あきらかに我々は存在しなかった
そして これからもだ