踏みつけの春
日々野いずる

ガラスを壊したのが
三十年前だとするとその頃から
死ぬのが決定付けられてた
優勝、
一言で終わる
それが
息を飲み
目を触る
松の木の肌を剥がす
松脂がついた手すりを思い出し
思い出すだけ思い出し
かき消す
火箸を突っ込む
焼き芋が焼けたと呼ばれた
三十度の夏が来る
蝉が転がる
潮風と工場の排気が混ざり合って
白波のうさぎが剥がれた
肉が食卓に並ぶのなら
チャーハンがいいなと注文をつける
母の苦笑いが苦しい
求人を見る指がつる
震えと揺らぎの間で
朝がまぶしく高くなる昇る
横に見たまま言葉を失うのなら
それでいいと蹴っ飛ばされる
路上で倒れる人たちの隙間に
体を置いて覗く
足先だけ水たまりに浸かる
ガラスが散った靴が踏む
新しい靴が欲しい
通販のページを見る
二足目から千円のシステムが
目を惑わせて
星に行く
袖を引っ張る娘の肖像が
かき消える
遠くの方で犬が鳴き
窓ガラスが消えている
夜風が吹き込む
飛び出したと気がついて
踏切
踏みつけの春
掃除する
人が行く
歩く


自由詩 踏みつけの春 Copyright 日々野いずる 2020-03-22 19:05:53
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