差別と無差別
こたきひろし

産まれる寸前に切符を渡されました
渡されたと言うか
無理矢理握らされました

それから強く背中をおされたみたいで
その勢いで
改札口通り抜けました

そしてそのまま押されながら
駅舎の階段を昇り
通路を渡り
渡りきるとホームへと階段を降りました

すると
丁度列車が滑り込んできました
停車するといっせいにドアが開きました

その時
ホームの上が溢れていたか空いていたか
車内が溢れていたか空いていたか

今となってはどうでもいいです

その時
車両とホームの間に
運悪く
左の足を挟まれたのかもわかりません

何とか自力で足は引き抜いたので
忘れる事が出来たのかもわかりません

車内に乗り込むことが出来ました

やがて列車は走りだし
やがて列車は止まりました

その時
ホームの上が溢れていたか
空いていたか
思い出す必要はありませんでした

ホームへと降りて待っていました
すると女に見つけ出され
駆け寄ってきた女の
胸に抱き上げられました

乳臭い匂いを嗅ぎながら
産声をあげました

そしていつの間にか
ベビーベッドの上ですやすやと眠ってしまいました


深夜に目を覚ましてしまいました
直ぐに救急車のサイレンみたいに泣き出してしまい
女が自分の寝床から起き出して抱き上げられました

抱き上げられながら
揺りかごみたいにされてしまいました
早く寝かしつけたかったんでしょう

女の思い通りになれずに
泣き続けていたら
男が目を覚ましてしまいました

男は苛立ちを露にして声に出しました
「俺は仕事で明日が早いんだ!早く泣き止ませろ!」
すると女も苛立って言い返しました
「あんたの都合なんて赤ちゃん聞いてくれないわ!」
すると男は声をいっそう荒げました
「それを何とかするのが女の役目だろ!」

育児に疲れていた女は
「ふざけないでよ!あたしは産んだけど、産ませたのはあんたなんだから、これくらい覚悟の上でしょ!」

止めてやめてやめて欲しい
と思ったのは私でした
私の為にケンカするのはヤメテ欲しいと思いました
わかったから
私泣くのやめるからと
素直に泣き止みました

何もかも私のせいなんだよね
私が生まれてきたせいなんだよね

そうやって二人がケンカばかりするように
なったのは

私はベビーベッドの上で即座に立ち上がり
すくすくと育ちました
そして歩き始めたら
異変に気付きました

左の足に不具合があったのです
右足に付いていけず
引きずっていました

私はそれが原因で有形無形の被害を
被りました

時には心が歪んだり捻れました
人間が嫌いになりました

人間である自分が嫌いになりました


自由詩 差別と無差別 Copyright こたきひろし 2020-03-22 07:44:59
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