見知らぬあなたのために
ななひと

立ち止まらないのならば 濡れていく花びら 触れるたびに 萎れていく 雨 くちびるのひととき そのとき振り返っていたら 寄せ合えたはずの指先 もう取り戻すことはできない 沈黙の錆 壊れていく さよなら それは期待に応えるような手心地 なぞられていく頬に残るあざ 短い呼吸 流れ止む眠り ここでは何もかもが華奢に作られているから 簡単に壊していける 細い首の人形 が 鳥たちのように 口づけを かわすよ それは とてもとても 美しい 光景だ そのときのために 特別な 謎かけを 作っておこう 刺繍された指で 針のような 爪で 細い細い 髪の毛 が ここではまるで花々のように 咲いている 耳を澄まして 濡れながら 分け入っていけば あなたはまるで 人形のように ゆっくりと 言葉に 口づけをする そばにいることが ここではとても貴重なことがらだ 見覚えのある 表情を 手のひらに封じて あなたへの贈り物にする それはやはり鍵のような形をしていて あなたはたぶん首をかしげるのだろう そのときのために 唇に言葉をくわえて 舌先で湿らせておくのだ 足音を消して もう必要のないものだから。



自由詩 見知らぬあなたのために Copyright ななひと 2003-06-27 16:09:12
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