その女は派遣で時給千二百円だった
岡村明子

赤いセーターの女
ひっつめの髪
きみどり色の閃光
作業
眼鏡
作業

作業
反復
業務



複写機
吐き出される
モノクロ
ドット
三千枚の
「@」の顔
「@」の顔は
百枚に一度くらい
「あ」とか
「う」とか
言っていたが
二千枚を過ぎたあたりで
苦痛にゆがみ
二千八百枚を過ぎた頃
血痕が浮き出し
あと少しというところで
赤いべた塗り
最後の一枚は
出てこない
髪が
ひっかかって
こびりついて

使えない
「@」の顔は
シュレッダーに
かつおぶしのように溜まっていく

ノー
断末魔の声は
オフィスの喧騒を少しだけやわらかくした

係長、
お茶です
修理は今日中に参ります


自由詩 その女は派遣で時給千二百円だった Copyright 岡村明子 2003-11-22 01:36:56
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