海へと
由比良 倖

止まれ
止まれ
僕の心臓

止まれ 止まれ
愛も 酷薄な告白も

僕の人生は凍結して
秘かに逆流するといい


冬の海に
どこまでも沈んで行く
ガラスの切符が
僕を
切りさく
切りさく

夜が剥がれていく
青い海の中で
僕は僕と向き合っている

誰も 手を貸さないのでした
誰も 手を貸してくれないのでした
僕は 手を貸しませんでした

振り向くと鬼がいました
鬼はいつも巣くっているのです
鬼はいつも笑っているのです
悲しそうに
悲しそうに

僕は水平線をこじ起こそうとした
空はとっくに橋の下で圧迫されていた

黒い海の中空気は格段に燃えていた
魚の群と見えたのは
ちぎれた僕の影でした


止まってください
僕の心臓

愛も 酷薄な告白も


いまはひとりでねむりつづけたい


自由詩 海へと Copyright 由比良 倖 2020-02-06 06:18:14
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