すべてのおわりに
うみ

ことばがぜんぶ死んで
人類が残ってしまった
だからぼくはきみを
ただ見つめることにした
白目に走る すこしだけ赤い血管
その茶色いひとみのなかの虹

ぼくたちは退化して
足がなくなってしまった
だからぼくはきみのとなりに斃れた
真夏の日差しがコンクリートを焼いて
くちびるは汗の味がしていた
水色のプールサイド

地球のよろこびがなにもかも消えて
すべてこわれてしまった
真昼の空を墜落した飛行機が
白い砂漠に突き刺さって
叫ぶ人もいなくなった
その星でぼくはきみをみていた
ひあがった海があった
くずれた街があった
けれどぼくは
ただその茶色いひとみがわらったときの
ちいさなそばかすや
唇のはしにできるしわや
白くひかる八重歯を見ていた

きみの目にしたたるさいごの涙が
ぼくの網膜に焼き付いて
まぶたのうらがわで
緑色の星になる

さよならを言うために
ぼくは生まれてきたのだろうか
手をつないだあなたが
誰だったのかなんて
一度もしらなかった
「ねえ、あいしてる」

ビルの間にはさまった空や
渋谷のきたないごみ
路地裏で猫を殺した男
そんなことがらをどうして
僕たちはどうにもできずに

きみの目がもう二度と
ひかりをうつさなくなるときに
僕はしずかにうたをうたうよ
すべてのきみへのうたを
のどがかれるまで


自由詩 すべてのおわりに Copyright うみ 2020-02-06 01:59:04
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