Physics Note 1
AB(なかほど)
1
不思議かい
それは君のノートが
白く見えているのと同じことなんだよ
つまらないかい
でも君が大切にしてきたこととそのはしごと
どっちが確かなことなんだろう
2
凸凹配位座はいつまでも漂っていて
地球のちぎれた塊でしかない月との合間にも
繋ぎ合った手のひらの合間にもある
そしてまだ当たり前のように
僕らの細胞のひとつひとつに
すべりこんだりもする
3
ひとつ物音が消えてなくなれば
かき消されていた音が聞こえてきます
テレビを消してみましょうか
ちょうど今頃は庭先から
みなさんがよく知ってるものや
そうではない虫の音も聞こえてきます
4
たぶん止まってしまったら終わりなので
僕らが見ている巡回水槽の中で
僕らが走る巡回水槽の中で
僕らが生きる巡回水槽の中で
君と僕が生きる巡回水槽の中で
止まってしまったら終わりなので
5
氷点下十五度の空気を吸いながらせかせかと
歩き、空を見上げると雪がはらはらと、はら
りはらりと、降るのは粉雪でもなく。
結晶のままの形で成長し、黒い手袋のひらで
そっと受け止めると、そこに星が散らばって
ゆく、アスファルトの上にも星が。
6
その風車 回す風
その風車 回す声
その風車 回す笑顔
その風車 譬う喜び
その風車 譬う悲しみ
その風車 譬う命
7
全自動じいさんは全自動ですが、梅干しを混
入させると、寂びてしまう恐れがありす。
そこで、
改良されたグレート全自動じいさんは耐性が
強く、決して寂びることも侘びることもない
のですが、面白味はありません。
8
連音のように
思いのうちのひと粒でも
連音のように届け
いつまでも僕の気持ちは
あの人の心の隙間に繋がりたがって
ゆうなんぎいのいとのそよとばかりに
9
ほら
いつまでも進まないから
そろそろ代わろうか
静かにうなずいた
のかどうか
オールを離した君は
10
カーブの仕方や止り方が判らなければ
轍の上を転がっているほうがいい
自由とは自らを律する事
と言いながらもまた
勢いよくひとつのワッカがあらぬ方向に
転がり出していくのを羨望している
11
帰る僕とすれ違う幾人もの人たちがいます
彼らはこれから
生きてゆくのか生きてきたのか
そんなことは
今夜は昨夜までとは違い
明日の陽射しもきっと違っています
12
言葉は心を越えられないこと
知っているのに
心が言葉を越えられないと
うつむいてみる
それが
林檎のように沈んでゆく