Astronomy club
AB(なかほど)
1
毎年この日の夜には
上原君の星が話しかけてくるはずなのに
今年は何も聞こえてこなくて
見上げても光が揺れることもなく
なあ、もう忘れちゃうよ
と、小さく嘘をついてみた
2
帰り道は晴れていて
すっかり覚えてしまった物語をつぶやくと
齧りかけの月、歪んでゆきました
置き去りの絵本、店員さんに見つかる前に
誰かが手にしてくれるでしょうか
それともその前に
3
でもさ
そしたらさ
よるのそらがきれいでさ
みたことなかったからさ
おほしさまとか
おつきさまとかさ
4
君が百本の小説を乗り越え眠るころ
僕は一握の詩の前で童貞のままで
国際色の喧騒にしがみつきながらも
同じ月の夢に
ニャー
と哭く
5
もう切る指をなくしてしまったらしいので
嘘つきなのは僕のほうだよ
と嘘をつく
琴座の一辺を二倍伸ばした線上に
糸切りを持った君がいて
約束、と言いながら弦を張り替えているとか
6
ここのプラネタリウムの寝心地は格別で
やがて40分の夜が明けて
おはようって言ってみるのがいい
眠りにきたの?と訊きながら息子は
小春日和の堤からふんわりロケットを発射する
それはあまりにもゆっくりと静かなのだけれど
7
僕が天文学者だったらと
その星帯の向こうのカロンを指差しながら
あたしを見た
あたしは冥王星のあなたの側で足をぶらぶらして
そんなに遠いんか
と笑った
8
銀河鉄道の話を聞きながら
僕は窓の外の天の川を
思い浮かべていた
君はそんな僕を
とても遠いとこから
探し出してくれた
9
どうして星は夜に見えるんですか
三鷹の空から130億光年先まで広がる宇宙の球は
ほんとに球なんですか
あんたの唇が動く
ただそれだけ待っている
夜はどうしてすぐぺしゃんてなるんですか
10
小惑星にまで触れたイカロスは
大気圏へ突入するその時に
その目で見た最後の映像を送信した
それは当たり前の私達の星の姿
君達の足並みは、羽ばたきは、瞳の色は
揃わされなくてもいい
11
猫と月は
もともとおさななじみなのに
とおく離れてしまって
それでも
月の胸に猫の痣があるように
猫の瞳に月がいる
12
空へ消える
天に昇る
残る記憶を感じて生きてゆく
空から降る声にも
清しい
瑠璃の色香にも