薬害マーメイド
ヒビノナコナ

三丁目の彼女は毎日 ガラわるい
ガラ悪い男達と飲み交わし 遊んでる遊んでる

本当の彼女は伝説の人魚姫

王子様選びを間違ったばっかりに
こんな目に遭ってるって思い込んで 
飲み干したバーボン

声は呑みすぎでつぶれてしまった
不自由な足は昔の男に刺された
泳ぐのは得意 ベッドの上 バスタブの海
彼女にとったらどこでも同じ

海にいたときは とても幸福だったのに
あの人に出会って すべてが曇ってしまった
やさしさも たのしみもいらない 
王子様がそばにいてくれたら それでいい
魔女がくれたクスリで声と引き換えに
足を手に入れたから こうやって踊るの

ときどき右腕に覗く ためらい傷
相手によって見せたりする強い武器 ツヨイブキ

本当の彼女は伝説の人魚姫

王子様が死んでもひとり生き延びていくんだよ
嬉しそうに話しても誰も信じないんだ

彼に婚約者ができた
話せない彼女はいらないって だけど帰れない
彼は私を見てもくれない…どうしたらいい?
もう泳げる場所など どこにもない。

私じゃどうしていけないのかしら?
髪はだれより輝き 声もつぶれる前は
キレイでみんな見てくれたのに 
思い出す度この呪いを解きたくなって
あなたを刺してしまいそう 
海の底へ連れて行きたい気持ちを
こんなにもこらえているのに

王子様の首に手をかけたけど 
細い指はうまくいかなくて あぁ
この人が死んだら私どうなるんだろう
怖くなる とまらない衝動

海に飛び込んだ日は月が丸かったよ
この時期に多い自殺とみんなが片付けた
婚約者は何処に行ったんだ?
男は首をひねって困っているだけだ
魔女がくれたクスリで彼と引き換えに
夢を眺めていたから こうやって消えたの



自由詩 薬害マーメイド Copyright ヒビノナコナ 2005-04-09 00:08:13
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