無題
おぼろん

朝焼けだよ。
朝焼けが真っ赤で綺麗だと、雨になるんだって。

と、君が言う。

僕はその、
「真っ赤で綺麗」という言葉に聞き入っている。

もし、彼女の言葉が本当ならば、
……そう、どうなると言うのだろう。

僕は言葉につまる。
(そんなこと、天気予報に聞けば良いじゃない)って。

君は真顔で、
まるで太陽の美しさに見入っているようだった。
今日のことは何も考えずに。

そして、昨日のことも、明日のことも、
考えてはいなかっただろう。君の心のなかには……

今だけがある。きっと。

単純な日常、
単純な仕事、
単純な会話、
単純な恋愛、
単純な作法、
単純な関係、
そのどれもが――、

きっと、君にとっては意味があるのだろうね。
僕には決して分からないのだけれど、

そこには、君が隠し持っている意味が、
含められているのだろう、
エスやイドのような何かが。

もしくは、世界のすべてを始まらせるような。
もしくは、世界のすべてを終わらせるような。
もしくは、世界にたいして何もしないような。

「……真っ赤で綺麗」、
という、言葉に僕は聞き入り、その言葉が反響する。
今朝、今日の朝、たった今、

瞬間、君の心に触れ得たような気がしていた。


自由詩 無題 Copyright おぼろん 2020-01-16 18:11:35
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