ハートステーション
ミナト 螢
耳を重ねると本になるから
どのページを開いても忘れない
夕焼けを閉じ込めたあの海で
貝殻よりも柔らかい関節が
光を貰って耳たぶを落とし
抱きしめるたびに噛み付いたね
瞬間接着剤みたいな夜が
白く固まって朝になるまで
怪我は無いのに瘡蓋を作り
思い出をめくるように
耳を離すとスピーカーになって
どんな言葉も伝えてくれる
ひこうき雲が通り過ぎる間に
髪の裏側に時計を仕掛けて
跳ねた分だけ急いで行こうか
波の音が背中に消えて
テレビの音が日常へ戻る
アップルパイの皮が震えるほど
ふたりの鼓膜で太陽が笑う