魔法の鏡
由木名緒美
私は私という一人称
薔薇を噛んで唇を切る
何処へ失踪していたの
いつの間に帰ってきたの
夜空に輝く星になっていたというのなら
この夜をすべて闇で塗り潰してしまおう
聴こえてくる吐息は
アコヤ貝の紡ぐ真珠の鼓動
美しいものは底の底に眠るものだけど
一体誰が隠したというのだろう
大きな 大きな 掌
自我に眠る恋人よ
どうか夢の切っ先で瞳を抉ることがないように
用心して現の果てから帰ってきておくれ
空への木霊の自白には
とても淋しい思いをしてきたよ
人は自己に語り掛けて
はじめて丸い円となる
世界で一番似た人間が映る魔法の鏡に
己の瞬きを映しては
何も見えずに泣いているんだよ