魔法の鏡
由木名緒美

私は私という一人称
薔薇を噛んで唇を切る
何処へ失踪していたの
いつの間に帰ってきたの
夜空に輝く星になっていたというのなら
この夜をすべて闇で塗り潰してしまおう

聴こえてくる吐息は
アコヤ貝の紡ぐ真珠の鼓動
美しいものは底の底に眠るものだけど
一体誰が隠したというのだろう

大きな 大きな 掌

自我に眠る恋人よ
どうか夢の切っ先で瞳を抉ることがないように
用心して現の果てから帰ってきておくれ
くうへの木霊の自白には
とても淋しい思いをしてきたよ
人は自己に語り掛けて
はじめて丸い円となる

世界で一番似た人間が映る魔法の鏡に
己の瞬きを映しては
何も見えずに泣いているんだよ


自由詩 魔法の鏡 Copyright 由木名緒美 2020-01-09 17:17:09
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