フラグメンツ カタログNo.1~30
AB(なかほど)




1
そして今僕が見ているのは 
雲から降ろされる光のはしご
指から零れ落ちる


2
あの日の雨は
もう降らないのかもしれない
もう降っているのかもしれない


3
魚屋の前ではきっと
夕焼けが足りないと 
うつ向いてしまうのだろう


4
戻って来た理由も
どうでもいいのかもしれない僕も
ほんとにくさいと笑って食べた


5
世界の全てが優しさで包まれるように
花束と折り鶴が少しだけ風に揺れる
ように


6
久しぶりに
想い出の瓶詰から取り出してみようか
齧りかけの林檎を描こうか


7
その辺に
赤い辞書のたぶんその辺に
夕焼けは挟まれている


8
花梨の細い枝の重たそうに付いている実は
そのままで、いつまでたっても「あの頃」
なんて言っている自分もぶらさがっている。


9
「花屋のエミちゃんが好きだったからです。」
正直にゃ 語れないな
「それはまるでタンポポのような、」


10
答えを出して欲しいとは思わない
今日も虫の音が聞こえる  
(幸せなことに正解はない)


11
くしゃくしゃになってるのは僕のほうで
握りつぶしてしまった写真の中でも
君はやっぱり笑顔なんですね


12
ちらすぬ ちらさん ちゅらー 
やさ
まぶや まぶや


13
今、君が飛び立つ理由を僕は知らない
君が微笑んでいる理由も僕は知らない 
バイバイ、エンキドゥ


14
本当にお利口さんだねえ
嘉手納まで来てたよ
嘉手納まで


15
君の声も君の顔も思い出せないのに
君の匂いなんて思い出したはずもない
あの夜に似ている


16
繋ぎ合った手のひらの合間にもある
そしてまだ当たり前のように
僕らの細胞のひとつひとつにすべりこんだりもする


17
ハーブをちぎり
魂を
在るべき場所へ


18
なんやわしの腹だけまだまだ元気やなあ
って言うから
みんなで笑って欲しい


19
欠番


20
とっておきを自分に刺してもうたんやで
あないなかみ憑かりにヒラヒラ振ってからに
餅はまだかいな


21
雑踏の中から聞こえてくる
ヨイトコーラセーノヨーイヤマー
振りかえると消えてゆく 


22
待合用の椅子に座り込んでしまう

預かりものはもう鳴らない


23
ロールパンの武器を手にした工長が
グッド モーニングって笑ってた
笑顔のその下には無数の筋繊維と毛細血管があるように


24
どうして降ってくれなかったんだろうね

写真に向かってつぶやいてみた


25
スーツの僕らが
いくら歳を重ねても忘れないように
変わらず


26
復帰から二年
島が翌年の海洋博で昂っている頃です
今ではもうムイ自体なくなりました


27
ようやく腰を上げた門番は無精髭でにこりとして
十二番目の石から昇る昼と夜のことを詠いはじめた
今も続く詩を


28
お婆のつぶやくような
いくつものおまじないの声に
耳を澄ませていた


29
笛の音
振り返るばかりの僕には
聞こえず


30
ほんとにうごかなくなるまで
みてきたいんだけど
ねむってきてもいいかなあ







自由詩 フラグメンツ カタログNo.1~30 Copyright AB(なかほど) 2020-01-06 19:47:20
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