春患い
トビラ

忌々しいほどに恋しくて、苦々しい
痛々しくて、煩わしいくらい好きで、
赤い、嘘みたいに
儚いくらい、赤い、会いたい

水平線、ずっと先
浮かぶ、青い星ふたつ
さみしい、むなしい
花の時、噛みあい

愛しそうにほころぶ、その横顔が、
金色にくっきり縁どられ
切望と絶望と笑っていく

例えばそれは薔薇に似て
落ちた花びらさえ、薔薇で
間違えたくても、鋭いトゲで
寄る辺ない世界のはじっこで
秘密の匂い、嗅いだんだ

涙、止まらない嗚咽かくしたくて、走る
自分、世界、視界、正解、
わからない、わかりたい
肩寄せあい、狭い居場所つくりあい
ひとつの教科書わかちあい
空いた席、君に座ってもらい

雨の日、地下鉄
帰り道、傘ふたつ
あてもなく、迷いもなく
頭も悪くなりそうなほど甘い、
チョコレート、ふたり頬張り

目の前の進路、君も僕も、
もてあまし、それでも
君は階段を駆け上がっていく

いつかまた逢おうね
一方通行に願いかけて
一月の夜空、澄んだまま
遠くはなれた君想う
白い息、星雲にとどくように

叶うなら
僕の人生をくべて
君の幸せにしたかった
愛の色を教えてくれた人
大きな運命を演奏してくれた人

置き去りにされても、なお、
花の香る季節にもどり

すうっと、あの空に線を引く
虹色になりきれない慕情にじませ
今もまだ、春患い

きない、明るい陽だまりのなか、
君の顔がぼやけていく
君がそれを望むように
晴れやかな春を、迎えたいように


自由詩 春患い Copyright トビラ 2019-12-30 11:24:48
notebook Home