約束からは逃れられないから
こたきひろし

私という人間が日夜老化の一途をたどっている
本体も部品も劣化している
すでに
見えてるところや見えない場所が壊れたり役目を終えたりしているような気がしてならない

時間に喰われて
その内完全に動かなくなるのは
母親の胎内に芽をだす以前からの約束だから
逆らうすべはない

産道を抜け出た日の事は何も覚えがない
産んだ母親から難産だったとも聞いてない

生きてきた
その間にこびりついた汚れや
流した涙の垢は
私という人間の持ち時間が終了するときには
綺麗に洗い流して欲しい

だけどそれは贅沢なお願いかも知れないな

私という人間を納めた箱を火炎のなかに
放り込んでしまえば
すべては済むんだから

妻のお母さんには
その最期の日に頼まれている
「娘の事宜しくお願いします」
私は黙って頷いた

その約束からは逃れる事なく
逃れようもなく
必死に妻を家族を支えてきた

けれどわが身の老いには
かてる筈がない

身を裂かれる想いがそこにはある
今は淡々と日々を過ごしているけれど
きっといつか
ステージの幕は降りる

それは母親の胎内に芽をふく以前からの
得体のしれない存在との
命と引き換えに交わした約束だから


自由詩 約束からは逃れられないから Copyright こたきひろし 2019-12-29 07:43:06
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