風には触らない。坂道はあらがわない。
竜門勇気


この坂道を何度歩いただろう
この坂道は上がっただけ下る必要がある
僕の車にたどり着くために
ある日なにかにふと気づく
なんにせよ、僕は最後にこの坂道を
上がって終わるか
下って終わるか選ぶ必要がある

僕がくたびれ果てている日
風みたいに
好きだった子が追い越していった
声をかけようとしてすぐやめたよ
彼女が追いつこうとしてるのは
僕じゃない
花の匂いがした
僕のための花じゃない
誰かが誰かに話しかける声がした
僕が触れるような世界じゃなかった

この坂道を何度歩いた?
何度下った?
楽しげに、軽やかに花々は咲き狂いながら散って
風に舞いながら夕暮れの赤黒い空に消えてった
様々な音楽を一度に鳴らしたように聞こえて
僕はうつむいてここを下った

何度も、何度も、そうした
今日もそうさ
花の匂いがする
でもあの日より痛くはない
うつむいて下る
様々な音楽が聞こえてくる
滑るようにして坂道を走っていく
僕をすり抜ける無数の刃は
もう誰とも関わりのない透明な暴力だから
風と変わりない
風には
風には
触らない


自由詩 風には触らない。坂道はあらがわない。 Copyright 竜門勇気 2019-12-27 11:47:51
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