そのひと
涙(ルイ)

そのひとは
そんなことばかり云ってないで の
そんなことばかりに
ちゃんとちゃんと
耳を傾けてくれるひとでした


そのひとは
呆れるくらい泣きじゃくる私に
何も云わず
私がしゃべりだすまで
辛抱強く待ってくれるひとでした


そのひとは
面白い冗談ばかり云っては
終始
笑わせてくれました
だからいつも電話するときは
長電話になってしまいました


そのひとが
ある日突然電話をくれなくなった日
私はただ 泣き崩れました
何故? どうして? 
私が何かしたの?
そんなことばかりが頭の中を駆け巡り
いつしかそのひとを逆恨みするようになり
言葉によって攻撃するようになってしまいました
感情が抑えられませんでした
なにかひと言云ってもらいたくて
あの頃みたいにやさしい言葉を
私は 自分のことしか見えていませんでした


半年ぐらい経って
そのひとからメールが届きました
病気だと聞かされました
難病指定の病気だと
それから そのひとは
私の 失礼とも云える行為には
何ひとつ反論してきませんでした
そのひとは 私のむき出しの感情を見ることができて
逆にうれしかったと云いました
そのひとには敵わないと思いました
完全完敗でした
それ以来 私の攻撃は終わりました


そのひとがすばらしい人間だなんて
私は思いません
きっと間違いもするだろうし
ときには感情をぶつけてくることもあるでしょう
現に私も傷ついたし 
めちゃくちゃな人間なんです
きっとね


だけどでも
これだけは云っておきたくて
他人があなたのことを
たとえ1ミクロンでも悪く云おうとも
私はあなたのくれたそのやさしさを
あなたの放つその言葉ひとつひとつを
ちゃんとちゃんと受け止める
受け止められる覚悟は
すでにしっかり 出来上がっているのです








自由詩 そのひと Copyright 涙(ルイ) 2019-12-13 00:50:56
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