あなた
立見春香


ある冬の
星と月が遠ざかる
そんな夜の街で

ほんとうの
あなたを探している
木枯らしが吹く

ユーフラテス川の
ほとりからこっち
ヒト科でいつわりなく幸せだったものなど
実はただのひとりもいないのだという
諦めが「ごお」とほおを打つ

コートのポケットに入れた手に
ふとした賭けで手に入れた
大昔の
瓶ビールといえばこれだったころの
キリンビールの王冠を握りこんだまま
そのギザギザの甘美な痛みを
いつまでもここちよく感じながら

永遠なものなど
いないのだと

深夜おびえながら
真実を知ることとなる

恐竜を絶滅させて
ヒトを栄えさせたのなら

ヒトを絶滅させて
トリを栄えさせるのも


神様の思し召しのままに……?


木枯らしが両眼を刺すから
直視できない真実を

鏡の中でも逆さにならない
知りたくもない真実を

銀河の歴史の法則から
逸脱していない真実を

星と月が遠ざかるという
駄法螺話を交えながら知らされる

その夜
暁の明星を待ちながら
夜の汚濁をすみかとする
知り合いたちを避けながら
夜の繁華な街を
それこそこそこそと歩いていたのは

この崩れかけている心を
赦してくれるはずの
あなたの声と
あなた自身をさがして

寒さで化粧を凍らせ
木枯らしに髪を乱され
さながら鬼女の涙をとどめたまま
いまはもういない
あなただけをさがして


















自由詩 あなた Copyright 立見春香 2019-12-12 03:41:09
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